しあわせの色

ジリジリでギラギラで、そんな光を受けて心底楽しそうに笑うわたしの好きな人。その彼が見たくて、行ったことのないところへ足を運んだのは、気を抜くとブルブルと震えてしまうくらい寒い日だったなと、画面の中に収まったそのひとを見て思う。そうそう、コートの中にもこもこの服を着て、ヒートテックとやらを着て、そのせいで服がもごもごしたりとか、した。彼に会う日はかわいい服が着たくていつもよりすこし薄着で、めいっぱいまつげを上向きにして、いつもは纏わない香りを纏って、そうして、そうして会いに行った。さむくなって、冬の匂いをこの胸いっぱいに吸い込むとき、わたしはずっとずっと彼に初めて会った日を思い出すんだろう。

あのミラーボールが開く瞬間のことを、わたしはずっと忘れられない。わたしの脳ではもうぼんやりとしているあの日だけど、それでも数年思い続けた彼が、わたしのなかで人間として実態を持つようになった、その瞬間だから。忘れられないんだ。そして、忘れたくない。神山くんは、まだ人間だった。ただ、わたしとは違う使命を持って生まれた、そういう人間だった。神山くんはきっと、魅せることがだいすきなひと。そういえば彼を好きになったきっかけも、小さなテレビ画面の中で、それでも直線的な光をこれでもかと放つところを見たせいだった。光はわたしのこころに刻印を残して、そのしるしだけをたよりにわたしは彼に会いに行った。

 

好きにならなかったらよかった、とさえ思った。嫌いになれたら、とも。どれもこれも、好きすぎて、だけど。広くて遠い、そんなステージで、コンサートの後半、神山くんは信じられないくらいたのしそうに笑った。双眼鏡を持たないわたしにも、それが伝わるくらいに。わたしはこの人から離れられないんだと、絶望にも似た確信が芽生えた。好きにならなかったらよかった、と思う反面で、この人に出会い好きになったことがこの上なく愛おしかった。神山くんはきっと、おしゃべりするとかいう名目であのステージに立つと、ちょっぴり自信がなくて、不安で、たじたじになってしまうんだろうなあと思うから、「ダンス」をするためにひとりであのひかりを一身に浴びる神山くんは、魅せることが天命であるひとだと感じた。その天命を自覚したときから神山くんは、たぶん想像できないくらい努力して、努力ということばに向き合って、たまにその過程を「スター性」なんて曖昧なものに欺かれたりして、それでもいまは手玉にとって「魅せる」ことで遊んでいるんだと思った。今の神山くんが好きなわたしは、過去の神山くんとそのまわりのひとたちに感謝したいなとか、なんかそんなことを、帰りのバスに揺られながら思った。わたしはこの人のことを好きになったことを、一生後悔するし、同時に人生でいちばんの誇りだと思って生きていくことがわたしの運命なんだと、そんなことを心がほろほろと零しているのを感じた。もうわかってたけど、わたしは神山智洋くんがだいすきなんだよ。

神山くんが、だいすきな7人にプレゼントした、「Evoke」という言葉の意味を調べた。感情や記憶を呼び起こす、喚起する、想起させるという意味があって、「e(外に)+voke(呼び出す)」というのが語源らしい。タイトルはなんでもよかってん、とその愛しい声は語ったけど、なんでも大袈裟に深読みしがちなわたしは神山くんがEvokeということばを選んだのは運命だったと思っている。神山くんは、7人のかっこよさを外に呼び起こすことができるひとで、それにとっても適任なひとなんだと思うから。そしてそれは、なにより神山くんをピカピカと輝かせることだ。「Now scream」と7人のその真ん中で叫ぶ神山くんは、だれもが目を奪われるような爆発的な光を放っていた。「神ちゃんが真ん中にいると、WESTがいちばんかっこよく見えんねん」というそのことばの真意を、わたしはあの曲に見た気がした。そうだ、わたしのすきなひとは、むちゃくちゃかっこいいひとなんだ。

 

ステージが神山くんの生きる場所。ねえ神山くん。そんなラベルを、神山くんに貼ってもいいかな。わたしは神山くんにそのラベリングをしたいんだよ。ステージで生きて、ステージで死んで、そんな神山くんの周りには神山くんが愛する6人がいて。ねえ、残酷なくらい素敵だね。キラキラだね。神山くんが憎いくらい欲しかったであろうゼロ番に立つ白を纏ってニカッとわらうあかいひとと、神山くんが愛おしく思って愛おしく思われるオレンジのひとと、お互い一目置きながらばかだなあって思っているあたたかなきいろのひとと、たぶん相容れないけど受け止め合えるあおいろのひとと、背中合わせでおしくらまんじゅうしながら切磋琢磨してきたむらさきのひとと、守り守られるピンクのひとと、きっとその最期を見るんだよね。わたしはそのときに、できれば立ち会いたくて、わたしのだいすきなアイドルの言葉をかりるなら、「降りる景色も一緒に見」たいと思うんだよ。そんなの、まだまだ先だけど。

 

7人が傷だらけでのぼりつめるところは、きっとどんな景色より綺麗で、美しくて、たぶんそこには鮮やかな虹がかかるんだろうな。わたしもその虹を見たい。見せたい。みんなで、山頂の空気をおおきく吸いたいね。あしたなんて言わないから、いつか必ず幸せの色でその景色を描こう。

 

あなたたちに会いに行く冬が、今はただ待ち遠しいよ。