夏が終わる気がする

 

もしかしたら涼さんがアイドルを辞めちゃうかもしれないって、初めて本気で思った。それが2019年の9月10日。そういう日だった。

なんとなく覚悟みたいなものをしているつもりではあったけど、それまでどこか漠然としていたこと。自担がアイドルでなくなること。わたしにとってたまらなく嫌なこと。耐え難いこと。それが突然すごく近くにやってきて、怖いと思った。現実にそんなことが起こってしまいかねないことも、起こったとてわたしの人生終わってもくれないことも、怖いと思った。

約4ヶ月、なにとはなしに暗かった。楽しいことがなかったわけでもないし、心がときめくことがなかったわけでもない。でもふとしたときにぐっとつらくて、ぎゅっと心臓が痛くて、世界に誰も手を差し伸べてくれる人がいない気がした。時々考え込んで泣いた。嫌だった。なんて馬鹿なことをしたんだろうって思った。アイドルを辞めないでほしいと願った日のことを忘れそうになった。というより、そんなふうに思えなくなっていった。どんな顔して戻ってくるんだろうって思った。こんなに迷惑をかけて、何食わぬ顔をして戻ってくるのなんて見ていられないなと思った。でも、この世の終わりみたいな顔で戻ってくるのも嫌だと思った。我儘だ。自分のことを考えているわけでもないのに未来が暗すぎて嫌になった。わたしが見ている"この世"が全然終わる気配もなくて、毎日あーあ、って思って生きている節があった。

2020年の1月1日。文書を見た。涼さんが画面に文字を通して存在していた。悔しいくらいに嬉しかった。悔しい。嬉しいって思った。たまらなく好きだって思った。アイドルとして生きていく覚悟が、多分腹の底から決まったんだろうなって思って、それはわたしにとって半分絶望で半分希望だったな、って今なんとなく思う。

 

19歳の涼さんに会いたかった。19歳の1年は当たり前に365日しかないから。それは涼さんが受けた何よりおっきい禊というか、なんというか、そういうものなのかなと思わなくもないけど、でも会いたかったな。10代の顔です、って瑞稀くんが言ってグーサインしたその顔を、本当はこの肉眼で見たかった。

これは、謹慎のことを美談にしたいわけでも、何かを得るためのポジティブな枷だったと言いたいわけでもなんでもなくて、ただの実感なのだけど、涼さんは前に比べてとびきりやさしく、そして少しだけ聡明になったんじゃないかなって思う。こんな前置きしなくていいなら、それに越したことはないけど。感情を素直に自分の言葉で、形にして出してくれるその形が、前よりすっきりとした輪郭になった。元からとってもやさしくて、あったかくて、ふわふわのわたあめみたいにあまくてやわらかい人だなあと思っているけど、くちあたりからくちどけまでずっとやさしくてたまらない人になったなと思う。それは彼がつよくなったってことなのかなとも。やさしさはつよさだと思っているから。つよくないと、やさしくなれない。

肩幅が広くなった。背中が大きくなった。筋トレのせいだけじゃないと思う。歌だって上手くなった。ダンスも上達したはずだし、ローラーももっと自由になった。大人になっていく。知らないうちに。目に見えないうちに。どんどん大人になっていく。やさしくなったのも、つよくなったのも、大人になるための翼をつくる準備だ。あと幾ばくもしないうちに、涼さんは20歳になる。はばたいているその翼を毎日作りかえて、大人になっていってしまう。

 

色んな媒体を通して見る涼さんがどこまで"本当"かなんてそんなことわかりもしなくて、そもそもそんなことどうだっていいんだけど、無粋ながらあえてその中でも"本当"だと思うことを切り取って手のひらに出すとしたら、わたしは彼の中のやさしさと、HiHi Jetsへの気持ちっていうのを信じていたいと思う。

知ってたつもりでしかなかったんだと思った。チェキを持って「何年か後に見返したら面白いかなって」と言ってたまらない顔で笑うところを見て、彼がどれだけHiHi Jetsっていう個を愛しているのかっていうことを、わたしは知っているつもりでいただけだったと心の底から思った。そんな顔するなんて、本当に知らなかった。理解はしていたのかもしれないけど、実感としてすとん、といちばん綺麗な形でわたしの中にそれがはまっていった。

 

 

インタビューで、涼さんは最初から最後までファンとの話をしていた。会えるなら会いたいと言って顔を顰めた。ライブの最中だって心底楽しそうに笑った。幸せだと何度も言ってくれた。

今のわたしは、涼さんがアイドルを辞めないでいてくれて本当によかったと思う。戻ってこないほうがマシなんじゃないか、どんな顔して戻ってくるんだって思っていた時の自分に教えたら絶望しちゃいそうなくらい、アイドルをしてるときの涼さんが好きだ。どうしたらいいかわからなくて、涙が出るくらい好き。

涼さんのことを思って文章を書く時、どこかいつも自信がなかった。好きな気持ちを嘘だと指さされてしまいそうな気がしていた。それは、涼さんのどこが好きなのかわからない、って思い込んで自分と対話するのを面倒がっていただけのことなんだと思うんだけど、涼さんはそんなこと吹き飛ばすくらい素敵な顔で笑ってくれるアイドルだ。

いつのまにかわたしにとって世界一大事で大切でたまらない人になっていた。誰かの代わりでも埋め合わせでも間に合わせでもない。

吹上のキラキラを見て「これ綺麗だよね」と何気なく言った彼の感性が好き。だってわたしもすごくすごく綺麗で夢みたいな光景だって思ったから。胸を張って言いたくなった。彼の感性どこまでも好きで、どこまでも信頼できるものだって、確信した。やっとやっと、大きな声で言える気がする。唯一無二の、 いちばん好きな人が、HiHi Jets橋本涼くんだということ。そういう、2020年の夏。

 

アイドルを辞めないでくれて本当にありがとう。これからもアイドルでいてね。